4つ星の酒場


★ 第四話 『若者達の日常』 ★


からんころん

フィル 「あー、お腹空いた。」

アンジェリカ 「あらフィル。いつもより遅いじゃない、今日は。」

フィル 「ちょっと取材が長引いちゃってね。」

ウィノナ 「そういえば新聞記者だったのよね、フィル。」

フィル 「……何だと思っていたんだ?」

アンジェリカ 「暇人。」

ウィノナ 「怠け者。」

サフラン 「危険犯し屋さん。」

フィル 「……どういう目で見られていたんだろう、俺。」

アンジェリカ 「それでフィル、
 今回は何を追いかけていたの?
 もしかしてサフランちゃんのゴシップ?きゃーーー☆」

サフラン 「ええっ!?ボ、ボクなのぉっ!?」

アンジェリカ 「このあいだサフランちゃんとキスしちゃったのがばれちゃったのねっ☆」

サフラン 「えええっ!?
 ち、ちょっと待ってよぉぉっ!
 ボクそんな覚えないよぉっ!」

アンジェリカ 「大丈夫よ、サフランちゃん泥酔してたし☆」

サフラン 「がーーーんっ……ボクの、ボクのファーストキスが……」

ウィノナ 「アンジェリカ、嘘を付くんじゃないのっ!
 エルメキアワインで酔わせて唇奪おうとしてたのは事実だけど、
 あたしが阻止したじゃない。未遂でしょ!」

アンジェリカ 「えー、ばらしちゃつまんなーい☆」

サフラン 「……よかった、アンジェにファーストキス奪われてなくて。」

アンジェリカ 「……あとは時間の問題ね。じゃあセカンドキスは頂戴ね☆」

サフラン 「えええっ!?」

ウィノナ 「アンジェリカっ!」


 ・・・・・・

アンジェリカ 「ねえねぇ、やっぱサフランちゃんのゴシップ追いかけてたの?」

サフラン 「なんでボクなのさぁっ!
 それにボク何も悪いことしてないよぉっ!」

フィル 「いやいやゴシップってのは
 誰もが知っている人物に対してあらぬ無実の疑いをかけるから、
 ゴシップとして成り立つわけだし。」

ウィノナ 「……あらぬ疑いかけてどうするのよ。」

フィル 「そのほうが報道としては儲かるんだよ。」

サフラン 「……ボクは今日、大人の世界を知ってしまった。」

フィル 「とりあえず何か食べさせてくれないか?
 お腹空いちゃって。
 えっと、何かサンドウィッチある?」

アンジェリカ 「マスター、メロンパンのサンドウィッチ一つ☆」

ウィノナ 「ちょっとアンジェ、メロンパンのサンドウィッチって何よ?」

アンジェリカ 「えー、あたしのお薦め料理☆」

サフラン 「……それって、料理なの?」

ウィノナ 「っていうかどんな味なのよ?」

アンジェリカ 「知らない☆ まだ味見してないし☆」

ウィノナ 「そんな無責任な物お客さんに出すんじゃないわよ!」

アンジェリカ 「え?お客?……誰?」

サフラン 「……アンジェ、自分がウェイトレスだって自覚ある?」

アンジェリカ 「ふりふりのエプロン?
 かわいいでしょ☆
 サフランちゃんもつけてみる?」

サフラン 「そういう問題じゃないと思うんだけど……アンジェ。」

ウィノナ 「っていうか全然答えになってないわよ!」

フィル 「なぁ、他にまともなサンドウィッチはないの?」

アンジェリカ 「じゃあベーコンエクレアは?」

フィル 「……なにそれ?」

アンジェリカ 「エクレアの中にベーコンが入ってるの☆」

ウィノナ 「……どんな味なのよ、それ?」

アンジェリカ 「食べてみる?」

ウィノナ 「要するにまだ味見してないのね……。」

アンジェリカ 「てへっ☆」

ウィノナ 「てへっ、じゃなくて。」

アンジェリカ 「えへっ☆」

ウィノナ 「えへっ、でもないから。」

フィル 「頼むからまともなサンドウィッチ何かないの?」

アンジェリカ 「ないの。」

フィル 「……即答されても困るんだけど。」

ウィノナ 「マスター、フィルに何かまともなサンドウィッチ作ってあげてー☆」

マスター 「あいよ。」

アンジェリカ 「あっ、
 卑怯よウィノナ、パパに直接頼むなんて!
 正々堂々と勝負しなさいよっ!」

サフラン 「勝負って……なに?」

ウィノナ 「だったら最初からちゃんとまともな物作りなさいよ!」

アンジェリカ 「だってさ、サフランちゃん☆」

サフラン 「ええっ!?」

ウィノナ 「なんでサフランなのよ!
 アンジェに言ってるのよ!
 ねぇ、フィル?」

フィル 「あ、ああ?」

アンジェリカ 「そういえばフィル、
 貴方がこのあいだラルフじーさんにおごったグレーブジュース代3リル、
 まだもらってないわよ?」

フィル 「……なんでまだそんなこと覚えてるんだよ。」


 ・・・・・・

ウィノナ 「そういえばあたしも注文まだだったわね。」

アンジェリカ 「ウィノナは何にするのかしら?」

ウィノナ 「どうしようかしらねぇ……。
 あたしはパンというよりも
 ライス物が食べたいわね。」

アンジェリカ 「サフランライスなんてどお?おいしいわよ☆」

サフラン 「……どきどき、ボクのことかと思って怖い想像しちゃった。」

ウィノナ 「そうね、じゃあサフランライスひとつ。」

アンジェリカ 「はーい。じゃあサフランちゃん、ちょっとこっち来て☆」

サフラン 「え、え?
 な、何するの、アンジェ?
 ねぇ、やっぱりなんか怖い予感するんだけど?」


ばたん



もそもそもそ


サフラン 「ち、ちょっと目隠ししてボクに何するのさアンジェっ!」

アンジェリカ 「ふふふ、いいから大人しくしてなきゃダメ☆」

サフラン 「え?え?」

ラルフ 「……はて?ここは?」

サフラン 「ってなんで洋服脱がせるのさぁぁっ!」

アンジェリカ 「うふふふふ、
 やっぱり胸ちっちゃいのね☆
 メインディッシュは大人しく……」

ラルフ 「ふむ、サフランにアンジェこんなところでお医者さんごっこか?」

サフラン 「っわぁあああっ!」


だだだだだっ



ぱたんっ


ウィノナ 「アンジェリカっ!何やってるのよっ!」

アンジェリカ 「えー、サフランちゃん脱がそうかと☆」

ウィノナ 「なんでそうなるのよっ!
 それにラルフの爺っ!
 最近見ないと思ったら、こんなところでなにやってるのよっ!」

ラルフ 「いや、道に迷ってしまってのぉ。
 気が付いたらこの樽の中におってのぉ。
 はて、わしはどこに行こうとしておったんだったかの?」

アンジェリカ 「あらあ、
 ボケちゃったの、ラルフの爺さん☆
 一緒にサフランちゃんを脱がせようとしていたところじゃない☆」

ラルフ 「……そうだったかのぉ?」

サフラン 「違うよぉっ!なんでそうなるのさぁっ!」

アンジェリカ 「だってサフランライスよ?
 ウェイトレスの格好したサフランちゃんが
 ライス運ぶんでしょ?」

ウィノナ 「違うわよ!
 私はサフランの花で色を付けた、
 香ばしいライスを頼んだのよっ!」

アンジェリカ 「えー、こんなにほっぺた柔らかいのに?」

サフラン 「ふにゅう、ほっぺたのばしちゃいやぁぁっ!」

ウィノナ 「関係ないでしょそれはっ!」

サフラン 「ふにゅう、あんじぇー、だからのばしちゃいやーっ。」


 ・・・・・・

ウィノナ 「……まったく、油断もなければ隙もない。」

アンジェリカ 「えー、あたしサフランちゃん好きよー☆ ふふふ☆」

ウィノナ 「その『好き』じゃなくてっ!」

サフラン 「ち、ちょっとアンジェ、
 その含み笑いはなにーっ!?
 ねぇちょっと、ボク怖いよぉっ!」

ウィノナ 「……あら?そういえばラルフの爺は?」

サフラン 「あれ?そういえばいないねー。」

マスター 「ああ、さっきまた樽の中へと入っていったぞ。」

ウィノナ 「……なんで樽の中から出入りできるのよ?」

アンジェリカ 「この界隈じゃ、
 あのラルフ=アークライトのお爺さんは有名よ、
 どこにでも現れるって。」

サフラン 「それは微妙に『どこにでも現れる』の意味が違うんじゃ……。」


ぐぅ


サフラン 「……ねぇ、アンジェ、
 ボクもちょっとお腹空いたー。
 何かパン類でおいしいのある?」

アンジェリカ 「うちで使っているパンは全部おいしいわよ☆」

ウィノナ 「そういえば最近ここのパンおいしいわね。
 でもこの酒場、パン焼き釜持ってないでしょ?
 どこかから仕入れてきてるの?」

アンジェリカ 「最近は住宅街にあるおいしいパン屋さんから
 仕入れているの☆
 ソフトブレッドっていうお店なんだけど、知ってる?」

ウィノナ 「まだ若い女性が切り盛りしてるあのお店?」

サフラン 「なんかお姉ちゃんが寝言で
 そんなお店の名前を呟いていたような……。
 それで、アンジェのお薦めはー?」

アンジェリカ 「そーねー、シュガートーストなんかどう?」

サフラン 「あ、それおいしそー☆」

フィル 「……なんで俺の時と違ってサフランにはちゃんとまともな物を勧めるんだ?」

アンジェリカ 「愛よ。」

サフラン 「えええっ!?」

アンジェリカ 「で、サフランちゃんどう? シュガートーストは☆」

サフラン 「うーん、じゃあボクそれに……」

ウィノナ 「……カロリー高そうね。」

サフラン 「うっ……。」

アンジェリカ 「じゃあシュガートーストのパンの耳の部分だけにする?」

サフラン 「パ、パンの耳だけって……。」

ウィノナ 「なによそれ。」

アンジェリカ 「えー、おいしいのよ?」

ウィノナ 「どんな風に?」

アンジェリカ 「ううん、試したことないから知らない。」

ウィノナ 「……じゃあおいしいかわかんないじゃない。」

アンジェリカ 「サフランちゃんの耳に砂糖付けて食べるっていうのは?」

サフラン 「ええっ!?」

アンジェリカ 「だっておいしそうだし☆」

ウィノナ 「そういう問題じゃないでしょ。
 食べられませんっ!」

アンジェリカ 「……乾燥剤?」

ウィノナ 「なんでそこで乾燥剤がてでくるのよっ!
 確かにそう書いてあるけどっ!」

アンジェリカ 「えー、
 でもサフランちゃんのほっぺ乾燥肌じゃないわよー☆
 つるつるー☆」

サフラン 「ふにゅう、だからってほっぺた伸ばしちゃいやー。」

ウィノナ 「ちょっとアンジェっ、そんなにサフランのほっぺた伸ばすんじゃないわよっ!」

アンジェリカ 「……じぇらしー?」

ウィノナ 「なんでそうなるのよっ!」

フィル 「ところで俺の注文した料理はまだ?」


 ・・・・・・

アンジェリカ 「はい、フィル注文の品ー☆」

フィル 「……これ、なに?」

アンジェリカ 「マスターお薦めのパン☆」

フィル 「……クルトンだけ?」

マスター 「おいしいぞ、クルトンは。」

フィル 「……そういう問題?」

ウィノナ 「あれはポタージュに入っているから美味しいんであって、
 単体で大量に食べてもぱさぱさしてるだけよ。」

サフラン 「ウィノ、何で知ってるの?」

アンジェリカ 「さては試したことあるのね?」

ウィノナ 「さ、さぁ……知らないわ。」

フィル 「……他に何かまともなパンはないの?」

マスター 「ああ、フライパンってのもあるぞ?」

サフラン 「……それは食べられないと思うんだけど……。」

ウィノナ 「……やっぱり親子ね、この二人。」

アンジェリカ 「えー、わかるぅ?」

ウィノナ 「そりゃわかるわよ。」

アンジェリカ 「だって☆
 よかったわね、サフランちゃん☆
 というわけであたしが今日から保護者よ☆」

サフラン 「ええっ!?」

ウィノナ 「なんでそうなるのよっ!」

アンジェリカ 「さ、ウェイトレス姿に着替えましょう☆」

サフラン 「ってなんだまた脱がすのさぁぁっ!
 フィルだって見てるじゃない!」

フィル 「……まぁ俺、あんまりロリコンじゃないし。」

サフラン 「どういう意味だよぉっ!」

ウィノナ 「……『あんまり』って何よ、フィル?」

アンジェリカ 「ほら、ウェイトレスウェイトレス☆」

サフラン 「アンジェのばかぁぁぁっ!」


そして、夜は更けていく……。


第四話『若者達の日常』 おわり。



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