『真実の抹消者(前編)』
「ふんふんふーん、
描いて貰った見取り図では確かこのあたりなんだけど……。
何よこの倉庫、埃だらけじゃない。」
「地図地図地図ー♪地図はどこー♪っと。」
「んー、これは?
『インヴィエルノ亭、ランチメニュー』
……違うわね。」
「こっちは何?
『プリマベラ亭、豪華なディナーセット』
なんで食べ物屋のチラシばかりなのよ。」
「……ん?
この折りたたまれた紙は何?
えーと……。」
「んっふっふーん、ビ・ン・ゴ☆
地図ってこれね。
まったく師匠ったら分かりづらい所に隠すんだからー。」
「動くな、侵入者!」
「そこまでだ、ジャンヌ=グリフィス!」
「あら、そっちの方は……初見かしら?
はじめまして☆ お邪魔してまっす。
で、男二人でこんなところデート中?」
「違ぇぇぇぇぇぇ!!!」
「……ロリコンと言われた事はあったが、
そういう勘違いをされたのは初めてだ。
果たしてどちらがより健全なのだろうか。」
「人生問答してる場合かよ!」
「そうだった。
とりあえずそこの侵入者、
両手を挙げて大人しくしてもらおう。」
「んっふっふー、アタイがそんな言う事聞くと思って?」
「わかった、飴やるから。」
「おい、子供じゃあるまいし、そんな手で釣られるわけが……。」
「え、本当?じゃあ投降しまーすっ☆」
「てめぇも飴に釣られるなぁぁぁぁぁぁ!!!」
「冗談よ、冗談。ジョークの通じない男ね。」
「まったくだ。」
「なんでお前ら意気投合してんだよ。」
「それはともかく、大人しく投降してもらえないだろうか。
こいつの話が本当だとしても、それはカイザリア帝国での出来事。
ここはアース家による主権の確立したブランドブレイ王国だ。」
「現時点では二件の侵入罪の疑いがあるだけだ。
その事についてのみ取り調べたい。
少し時間を貰えないかね?」
「何言ってんだ、だからあの女は指名手配犯で――」
「外交官でもない他国の人間の言う事を、
聞く理由も権限も、俺にはないんだ。
お前も帝国の人間ならそのぐらいの分別はつくだろう?」
「……ならば、力づくでその女を取り抑える。」
「!」
「待て、馬鹿野郎っ!」
「うぉぉおおおおっ!」
「んもぅ、突撃しかパターンのないお馬鹿さんねぇ。えいっ。」
「うお!?本棚が崩れて――ぐぁああ!?」