Forbidden Palace Library #06 揺れるその瞳


王都シルバニア
中央公園

公園の遊歩道に沿うようにして植えられた広葉樹はまだ春の息吹を感じていないのか、葉を落としたままだ。
そんな木々の下、春の芽生えを探そうとしているのか、一匹の猫がうろうろしている。

街路樹の下に一組の男女がいる以外には人影はない。


ユリア (あれ、あそこにいるのレナードちゃんとアリスちゃんじゃない?)

(そうみたいですね……)

アシスト (よし、そのあたりに隠れろっ!)

エリーゼ (……覗きはよくないわよ。)

アシスト (いいから隠れてろって、エリーゼ。)

エリーゼ (……もぅ。強引なんだから。)


・ ・ ・

レナード 「実は話があるのだが……」

アリス (話?話って何かしら……まさか『君とはもう会えない』なんて言われたらっ!
 そんなのいやいやっ!私の気持ち、まだ伝えてない……そうよ、今伝えれば……)
「私も、レナードさんに話があるんです。」

レナード 「?何だね?」

アリス 「レナードさん……あの……」
(言うのよ、アリス。ずっと言えなかった事を。
 でもレナードさん……私の事、何とも思っていないかもしれない……)


がさっ


レナード 「誰だっ!?」

「!!!」

レナード 「秘書っ!
 それにアシスト、ユリア、エリーゼっ!
 ……お前達……」

アシスト 「ちっ!みつかったかっ!」

ユリア 「総員、撤退っ☆」

エリーゼ 「……後で何か言われたらロウクス君の責任ですからねっ!」

アシスト 「いいから早く逃げるぞっ!」


たたたたたたたっ


レナード 「待てっ!」


がしっ!


「あ、あれ?
 ……えっと、レナード将軍。
 その襟首掴んでいる手を放して……貰えません?」

レナード 「秘書。上司を欺いた覚悟はできているな?」

「だ、だから私の妹が……
 アシスト師団長の実験台にすると脅されて……
 その、不可抗力で……あのー、」

レナード 「……本年度の有給休暇全て没収。」

「そ、そんなぁぁぁぁぁっ!?」

レナード 「それが嫌だったらあいつら全員つかまえてこいっ!」

「は、はいぃぃぃぃぃっ!!!」


たたたたたたたっ

レナード 「……ふぅ。とんだ邪魔が入ってしまったな。」

アリス 「でも、これで……
 その……二人っきりですね……。
 もう周囲に、誰もいませんよね?」

レナード 「あ。ああ。」

アリス 「あの、レナードさん。」
(言うのよ、アリス。でも『ごめん、君とはただの友達なんだ』なんて言われたら……。
 ひどいわっ!私とは遊びだったのねっ!夢の中で私に色々したくせにっ!)

レナード 「ん?」

アリス (ダメよ、アリス!ううん、弱気になってはダメっ!
 ……そうよ、だったら簡単な既成事実を作ればいいのよ!)
「ちょっとこっち向いていただけます?」

レナード 「ああ、なんだ……?」

アリス 「目を瞑って下さい。もう少し顎を下げて……そのまま、動かないで下さいね。」

レナード 「???」


ちゅっ。

レナード 「……アリス……さん?」

アリス 「…………。
 私の、気持ちです。
 受け取って下さいますか?」

レナード 「アリスさん…………あ、ああ。もちろん。」


ぎゅうっ

アリス 「あっ……。」

レナード 「アリスさん
 ……キスが先で順番が逆になってしまったが……
 俺とつきあっていただけますか?」

アリス 「……はい、喜んで」


ぎゅうっ

レナード 「ア、アリスさん?」

アリス 「……レナードさん、ひょっとして嬉しくて動揺されています?」

レナード 「あ、ああ。どうしてそれが?」

アリス 「くすっ。だって、瞳が揺れてますもの……」



お・し・ま・い・☆


▽そしてその頃……



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