「……?どうした、何があった?」
「あ、セディ様。
これは失礼致しました。
お嬢様は今工房の方におられます。」
「ふっ、それより今の胡散臭い奴は誰だ?」
「貴方様以上に胡散臭い者は滅多におりませんが。」
「今、何か言ったか?」
「いいえ。」
「ふっ、このセディ様は実に寛大だ。
特別に今回だけは聞かなかったことにしてやろう。
それで、今の奴は何者だ?」
「お嬢様の故知の方でいらっしゃいます。」
「貴様とも顔見知りのようだったが?」
「…………。」
「ふっ。何か裏がありそうな口ぶりだな。」
「お答えできませぬ。」
「そうか。それが執事としての務めか。ならば仕方あるまい。」
「……本当に法と秩序だけが人にとって最も美しいと映るならば、
どれほど名だたる絵画作品よりも、
ただ真っ白な一枚のキャンバスの方が美しいことになるはずです。」
「人は秩序だけでは生きられない。混沌だけでもまた然り。
心の中に秩序と混沌の両者があるからこそ、
その調和の中に美しさを見いだせると思うのです。」
「ふっ。なかなか詩人のようなことを言うな。」
「この国の大半の人間には、
恐らく真っ白なキャンバスの方が
美しいと感じられるのでしょう。」
「確かに先ほどの男、あまり好ましい印象とは言えぬな。」
「……お嬢様の客人にこのような事を申し上げるのは失礼至極かもしれませんが。」
「ふっ、何だ。」
「やはり男色はよろしくないと思われます。」
「ふっ、だから違うと言っているだろうがっ!
どうやら貴様とは一度徹底的に話し合った方がよさそうだな。
よかろう、後で倉庫裏まで来い。」
「……お嬢様以外の、それも殿方との逢い引きはちょっと。」
「…………ふっ。
貴様ぁあああっ!
今すぐそこへ直れぇえっ!」
「ちょっと、何叫んでるのよ。
うるさいわねぇ。
あら、セディ。来てたの。」
「……お嬢様、セディ様がお見えです。」
「……ふっ。少々取り込んでいただけだ。」
「エーデルもどうしたのよ?
あなた達二人して髪も着衣も乱れてるわよ。
人の家の玄関で。」
「ふっ。この馬鹿がロクな事言わんからだ。」
「セディ様が危険な発言をなさるからではないですか。」
「え、男同士で危険なこと?……してたの?ここで?」
「お嬢様っ!
わたくし目にはこの男と違ってそのような趣味はございませんっ!
どうか、信じてくださいませ!」
「ふっ、私にもその様な趣味はないっ!!!」
「……仲いいのね。アッヤシイー。」
「違います、お嬢様っ! 信じてくださいっ!」
「ふっ。メルフィア、貴様にも一度説教する必要がありそうだな。」
「いーえ、大丈夫よ。
私、これでも結構理解ある方だと自分で思うから。
心配しないで、二人がそういう仲でも差別したりしないわ。」
「よかろう、二人ともそこへ直れ。正座だ。」