Forbidden Palace Library #W01 『真実の継承者(前編)』

『真実の継承者(前編)』




ブランドブレイ王国
ステラ港


星の港、ステラ。
遙か昔の言葉でその意味を持つ、この港の歴史は古い。
一説には、ラファエル王国以前にまで……つまりは旧文明時代まで歴史をさかのぼれるという噂もある。

いくつもの街道が交わる要所となっているこの都市は、大陸で最大の規模を誇る。ありとあらゆる物が揃うため、「市場都市」と称され事もある。
唯一の難点は、都市規模が故に物価も高いということだ。


??? 「ふっ。やはりまた現れたか、エンディルめ。」

ウィリアム 「!?」

??? 「……!!! まさか、お前はっ!?
 どうしてだ!?
 どうしてお前がこの世界の人間の味方をする!?
 お前は中立の立場ではなかったのか?」

??? 「ふっ。 貴様の言っている意味がよく理解できないが?」

ウィリアム (なんだなんだ? 俺は一体何に巻き込まれているんだ?)

??? 「……いや。違うみたいだな。
 奴の精神が感じられない。それに声も違う。
 だが肉体は紛れもなく奴のもの……お前に質問がある。
 その肉体の本当の持ち主はどこにいる?」

セディ 「ふっ。この肉体のかつての持ち主と知り合いだったというわけか。
 奴ならば、この肉体の最初の持ち主はとうの昔に私が消滅させた。
 だが、何故貴様ごときエンディルがそのような事を知っている?」

ウィリアム (エンディル!?
 さっきも青い肌の奴らのことをこいつは確かにそう呼んだ。
 ……ってことは、ちょっとまてよ。)

ウィリアム (300年前にこの世界に攻めてきて、
 かつて大陸を統一していた王国を崩壊させるきっかけになったという
 あの青き民のエンディルが今目の前にいるっていうことなのか?)

ウィリアム (……俺ってとんでもないことに巻き込まれてしまったんじゃ!?)

??? 「なるほど……そういう事か。
 つまり、既に奴の魂はもうないと。
 ……これで我々の憂いは全て消えたという訳か。
 もはや敵はいないということだな。」

??? 「ふっ。どうやら貴様の目は節穴のようだな。」
 敵はいないだと?
 このセディ=ラザフォード様を見逃してもらっては困るな。」

??? 「へぇ、面白い。自ら戦いを望むとは変わった奴だな。
 まぁいいぜ。
 ならば相手をしてやるよ。
 お前が奴の肉体をどこまで自在に操れるかにも興味あることだ。」

セディ 「ふっ。大口を叩くのも今の内だ。」

ゼルイリアス 「俺の名はゼルイリアス。
 まぁ聞くまでもないと思うが、聞いておこう。
 この世界の人間よ。
 魔導を捨てろと言ったらどうする?」

ウィリアム (魔導を捨てろ? こいつら、何言っているんだ?
 そんな事できるわけないだろ。
 魔導が無かったら生活なんかできやしない。)

セディ 「ふっ。断る。」

ゼルイリアス 「……聞くまでもなかったみたいだな。
 答えは300年前と同じか。
 やはり力ずくしかないんだよな、どこの世界の魔導文明も。
 ……何としても、お前達の文明を破壊する。」

??? 「待てっ!!!」

セディ 「!?」

??? 「そこの青い肌の奴らっ! 無駄な抵抗はやめろっ!」

ゼルイリアス 「!? だれだ?」

サード 「ブランドブレイ王国7月騎士団、騎士団長サード=ノーベル。
 都市破壊活動を直ちに止めよ。
 さもないと……どうなるんだろ。ねぇ、どうなるの?」

ウィリアム 「俺に聞くなよ。お前騎士団長なんだろ?」

セディ 「ふっ。騎士団がこの町に滞在中だったとはな。」

サード 「じゃあとりあえず活動やめないとこっちも破壊活動を……」

ウィリアム 「してどうするんだよ。よけい悪化するだろうが。」

サード 「なるほど、それも一理あるな。」

ウィリアム 「いや、一理あるな、じゃなくてさ。」

サード 「でも負けない。」

ウィリアム 「……お前本当に騎士団長なのか?」

サード 「とりあえず痛い目に遭いたくなかったら大人しくしてほしいなと。
 でも痛い目っていうとなんか鞭とかでぴしぴし叩かれそうな感じだよね。
 想像しただけで痛そうだなぁ。俺そういうの趣味じゃないし。でも負けない。」

ウィリアム 「お前さ、何しに来たの?」

サード 「世界の平和を守るために国内巡回。」

ウィリアム 「……なんかその言葉に異様なまでの違和感を感じるんだけど。」

セディ 「ふっ。
 これだけの騎士団を相手に戦う気か?
 数では貴様らの方が分が悪いぞ、エンディル。」

ゼルイリアス 「……確かに戦って無傷で済みそうにはない状況だな。
 俺が無事だとしても、残りの兵が心配だしな。
 まあいい。
 今日の所は一端引き上げるとするか。」

セディ 「ふっ。後悔するぞ。」

ウィリアム 「おい、煽ってどうするんだよ?」

ゼルイリアス 「まさかあの男の肉体を有した奴が敵に回ることになろうとはな。
 ま、奴自身が敵に回るよりはマシと考えるべきだろうな。
 ……この世界から魔導を消した後の攻撃目標は決まった。
 奴の居城……白亜の宮殿だな。」

セディ 「……宮殿?宮殿だと?
 待て。貴様はあの宮殿の在処を知っているというのか?
 どこにある!?宮殿はどこに、どこにあるのだっ!?」

ウィリアム 「!?」
(なんだ?
 この魔導師、急に取り乱しやがった……?)

ゼルイリアス 「へぇ、やはり魂と同時に奴の記憶も消失しているみたいだな。
 ……そうか、あの宮殿には……あの少年がいるんだったな。
 髪青きエンディルの、古き血を純粋に受け継いだ最後の一人が。
 一筋縄にはいかないかもしれない、か……だが、この世界の事が先決だ。」

ウィリアム (!? こいつは、何を言っているんだ?
 青い髪?青い肌じゃなくて青い髪と言ったよな、こいつ?
 なんだなんだ?)

ゼルイリアス 「ひとまず撤退するとしよう。
 セディ、だったな。名前、覚えといてやるよ。
 じゃあな。

 XI DEXI... FE KVWE... !」


ヴ……ン……


ウィリアム 「!?消えたっ!? 亀裂が……閉じていく!?」

セディ 「ふっ。逃げたか。」

サード 「なにはともあれ、一難去ったみたいだね。
 そしてまた一難が来るのかも知れない。どうしようどうしよう。
 でも負けない。」

ウィリアム 「……なんか、とんでもない騎士団長だな……。」


▽……。



▽書庫に戻る


OWNER
Copyright(c)1997-1998 FUBUKI KOGARASHI (木枯 吹雪) fubuki@kogarashi.jp 日本語でどうぞ。